インボイス制度は法人には関係ない?法人に与えた影響を解説

インボイスとは、正式には「適格請求書」といい、正確な適用税率や消費税額を伝えるための領収書やレシートのことです。
インボイスを発行、保存することで、仕入れにかかる消費税の控除を受けることが可能になります。

インボイス制度は、法人においても無関係とは言えず、どのような影響があるのかを把握しておく必要があります。

本記事では、インボイス制度が法人に与えた影響や、法人変更のメリット・デメリットを解説します。

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インボイス制度は法人に関係ない?

インボイス制度は、法人や中小企業に無関係ということはなく、一般企業と同様に税金の控除に影響を与えます。

インボイス制度の影響は、会社の事業形態や事業規模による違いはなく、事業者が課税事業者か、免税事業者かで異なります。

インボイス制度の導入後は、一定の要件を満たしたインボイスを売り手が買い手に交付し、双方がインボイスを保存しなければなりません。
これが、消費税の仕入税額控除の適用要件となるためです。

インボイス制度による影響が少ないケースとは

インボイス制度は、基本的に業種による影響の変化はありませんが、一部例外があります。

以下の業種やケースに該当する場合は、インボイス制度による影響が少なくなります。

取引先が一般消費者であるケース

一般消費者は、購入したものやサービスに対して、消費税を直接納める必要がありません。
そのため、そもそも仕入税額控除と関係なく、インボイス制度とも無関係といえます。

では、一般消費者のみを顧客とする業種はどのような業種なのか、以下をご確認ください。

一般消費者のみを顧客とする業種の一例
  • 美容院・理髪店
  • ネイルサロン・エステサロン
  • マッサージ店
  • スポーツジム
  • 学習塾
  • 音楽教室・英会話教室
  • 居住用賃貸住宅のオーナー
  • 医療機関

上記の業種に関しては、インボイス制度による消費税の控除は受けられません。

専門的な技術をもっているケース

イラストレーターやエンジニアなどは専門スキルを求められるため、市場価値が高い職種です。

長年の取引関係を切って、同等のスキルをもった課税事業者を発注側が探すのは、手がかかります。
そのため、売り手である外注先の専門職の事業者が、免税事業者のままであっても、そのまま取引継続となる可能性が高く、インボイス制度による影響は少ないでしょう。

適格簡易請求書の発行が認められる業種

適格請求書に代えて「適格簡易請求書(簡易インボイス)」の発行が認められている業種もあります。
小売業や飲食店業、旅行業などが該当します。
ただし、免税事業者は含まれません。

これらの事業は、不特定多数の方を相手に、商品の販売やサービスの提供を行っています。
そのため、適格請求書の発行が認められておらず、代わりに、簡略化した適格簡易請求書の発行が認められているのです。

これらの業種で受け取る、領収書やレシートを適格簡易請求書と見なすことで、利用者側は仕入税額控除ができます。

インボイス制度導入にともない法人に求められる対応

インボイス制度導入にともない、法人・個人事業者には、以下の対応が求められます。

インボイス制度で法人に求められる対応
  • 取引先の状況を確認し、相談する
  • 適格請求書発行事業者になるために申請する
  • 売り手は適格請求書(インボイス)を交付し、写しを保存する
  • 買い手は受領したインボイスを保存し、受領したインボイスの会計処理を行う

まず、必要になるのは取引先とのコミュニケーションです。
売り手であれば、取引先がインボイスの発行を必要としているか、買い手であれば、仕入先が適格請求書を発行してくれるかの確認から始めましょう。

次に、適格請求書発行事業者になるかどうかを判断します。
免税事業者は、課税事業者となり、適格請求書発行事業者として登録するか、現在のまま免税事業者でいるかを決めなくてはなりません。

適格請求書発行事業者になるには「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出が必要です。
申請から登録番号が発行されるまでは、約1か月間かかります。

売り手側の対応

インボイス制度において、売り手側に求められるのは「インボイスの交付」と「インボイスの写しの保存」です。

売り手である登録事業者は、買い手である取引相手(課税事業者)からインボイスの発行を求められたときは、インボイスを交付しなければなりません また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります。

買い手側の対応

買い手には「受領した適格請求書の保存」「適格請求書か否かを判別した仕訳」が求められます。
買い手が仕入税額控除の適用を受けるためには、売り手である登録事業者から受領したインボイスの保存等が必要です。
ただし、2割特例や簡易課税制度を適用する場合は、消費税の計算にあたってインボイスの入手や保存は不要です。

会計処理でも新たに対応しなければならないことがあります。
免税事業者などからの課税仕入れは、適格請求書発行事業者からの課税仕入れと区別して仕訳をしなければなりません。

発行した適格請求書の控えは原則7年間の保存が必須です。
電子で発行した場合は、電子データとして保存する必要があります。

インボイス制度は法人にどのような影響を与えるのか?

インボイス制度の導入後、法人にはどのような影響が出ているのでしょうか。
課税事業者と免税事業者に分けて、それぞれ具体的に解説します。

法人が課税事業者の場合

法人が課税事業者の場合、インボイス制度が導入されたことによって、受ける影響は2つあります。

適格請求書発行事業者の登録が必要になる

インボイス制度に対応するには、登録申請をして適格請求書発行事業者になるという手続きが必要になります。
その際、請求書や領収書などのフォーマットを変更する作業が必要です。
さらに、取引先が適格請求書発行事業者かどうかの確認や、適格請求書とそれ以外の領収書や請求書との分離処理といった業務も発生します。

税負担が増える可能性がある

課税事業者が免税事業者と取引すると、仕入税額控除の適用が受けられないので、何も対処しなければ、そのぶん事業者の消費税負担が増えます。

法人が免税事業者の場合

法人が免税事業者であれば、直接的に税負担が増えることはありませんが、適格請求書の発行ができないため、取引先が課税事業者の場合に大きな影響を受ける可能性があります。

利益を得られなくなるリスクがある

免税事業者は、インボイスの発行ができないため、課税事業者との取引の際、値下げ交渉をされる可能性があります。
取引先の要求にその通り応える必要はありませんが、ある程度の譲歩を迫られることになるかもしれません。

取引が減る可能性がある

免税事業者と取引を続けると、取引相手が課税事業者だった場合、仕入税額控除を受けられず、消費税負担が増すことになります。
そのため、価格の見直しでは済まず、取引の削減、停止を求められるかもしれません。

これを避けるために、適格請求書発行事業者になると、免税事業者ではなくなるため、消費税を納める義務が生じます。
いずれにしても、負担が増えることが考えられます。

インボイス制度の導入を機に法人化すべき?

個人事業主として事業を行っている者が法人化して、その法人組織の中で事業を引き継ぐことを法人成りといいます。
法人成りすると、原則として2年間は消費税の納税が免除されます。

インボイス制度の導入前に法人化したほうが「免税期間」が長くなるのは、次の2つのケースに該当する事業者です。

インボイス制度の導入前に法人化した方が良いケース
  • 既に課税事業者になっている個人事業主
  • 2019年・2020年の課税売上が1,000万円を超えた個人事業主

法人化すると個人事業主と新設法人は別人格となるため、最大で2年間の免税期間が発生します。
これが、免税期間が長くなる仕組みです。

法人化しないほうがよい場合とは

法人化しないほうが良いのは、業務負担を増やしたくない場合と、経費の負担を増やしたくない場合です。

前者は会社の営業活動などで、マンパワーが不足し、法人設立に回す人手が見当たらない場合です 会社設立では、定款作成や公証役場に出向いての認証、法務局での法人登記、法人税の申告書作成など、必要な立ち上げ準備が続きます。
資金に余裕があれば、これらの作業・業務を専門会社にアウトソーシングすることもできますが、そうでなければ慎重に考えたほうがよいでしょう。

後者の経費の負担増を避けたい場合とは、会社の運営資金に余裕がないケースです。
法人化すると、収支が赤字でも法人住民税を納める必要があり、年間で7万円の支払いが生じるほか、社会保険加入も義務付けられ、人件費の増加につながります。
これが従業員4人以下の個人事業主であれば、社会保険料に加入義務はないので大きな負担といえます。
このように、法人化に伴って発生する公租公課があるので、運転資金に余裕が無い場合は、法人化を見送ったほうがよいでしょう。

法人化する際に準備しておくこと

インボイス制度に合わせて法人化し、適格請求書発行事業者となる場合、どのような準備が必要なのでしょうか。
具体的に考えておくべきことを挙げていきましょう。

一つ目は、消費税の納税額を把握しておくことです。
法人が課税事業者になった場合、課税期間の末日の翌日から2か月以内に消費税を納税する義務が生じます。
あとから慌てないためにも、事前に納税額を把握し、納税資金を準備しておく必要があります。

次に、法人化した場合、消費税の申告を前提とした経理方法を導入するということです。
売上げや仕入れに消費税を含める「税込経理方式」と、含めない「税抜経理方式」の2つの方法があります。

処理が簡潔なのは、税込経理方式の方ですが、消費税額がわかりづらいのが欠点です。
一方、税抜経理方式は、処理は複雑になりますが、納税する消費税額は把握しやすいのがメリットです。
いずれの方法も選択自由なので、自社に合った方法を選ぶとよいでしょう。

法人化するメリット

インボイス制度の開始と前後して、売上げや利益とは無関係に、法人化を考える個人事業主が増加しています。
では、法人化するメリットにはどのようなものがあるでしょうか。

メリット@社会的信用が上がる

個人事業主やフリーランスと比べると、法人格は社会的信用度が高いものです。
取引先を法人のみに限定している企業が多く、法人化すれば、取引先の幅が広がる可能性があります。
将来、事業拡大を考えた際、金融機関からの融資を受けやすくなるでしょう。

メリットA節税対策になる

個人事業主から法人になると、経費計上できる項目が増えるため、税務対策上有利となります。
具体的に行える節税対策には「役職報酬を経費にできる」「所得が800万円以上であれば税率が低くなる」「繰越控除できる期間が長くなる」などがあります。

まず「役員報酬を経費にできる」ですが、これは役員である自分への適正な役員報酬は経費計上できるため、法人としての課税所得を減らすことができるというものです。
役員報酬には「給与所得控除」が適用され、55万〜195万円の控除が受けられます。

また、個人事業主は累進税率のため、所得が増えるほど税率は上がっていきますが、法人は800万円超が税率23.2%でそれ以上上がることはありません。

法人で赤字が出た場合の繰越し期間は10年間に延長できます(個人事業は翌年以降3年間)。
単年で大幅な赤字が出てしまった場合、長期間でリカバリーした方が1年あたりの決算への影響・負担は少なく、節税効果も高くなるので大きなメリットといえるでしょう。

法人化するデメリット

法人化する際のメリットを紹介しましたが、個人事業から法人化することによるデメリットも押さえておきましょう。

デメリット@赤字でも税金がかかる

個人事業の場合、赤字になれば、所得税・住民税ともに支払いが全額免除されます。
しかし、法人になると、赤字になった場合でも、法人の規模や事業所の有無に応じて算出される、法人住民税の均等割は納税しなくてはなりません。
とはいえ、法人税や法人事業税などは免税となります。

また、課税事業者の場合、消費税も納税する義務があります。

デメリットA社会保険の加入が必要になる

個人事業主の場合、従業員4人以下であれば、社会保険への加入は必須ではありません。
しかし、法人は役員が1名しかいなくても、健康保険と厚生年金に加入する義務があります。

役員報酬の額によって異なりますが、個人事業主のときの国民健康保険と国民年金の合計よりも割高になるケースが多くなります。

デメリットB事務作業の負担が増える

法人になると、個人事業主のときと比べ、経理処理や決算手続き、必要な書類が増え、日々の記帳がより複雑になるのは避けられません。
これに社会保険などの手続きが加わるので、必要な事務作業はさらに増え、事務員を雇用するとなると、人件費もかさみます。

インボイス制度の導入は法人にも影響があり、適切な対応が求められる

今回は、インボイス制度の導入にあたり、法人に与える影響について解説しました。

制度改正で、売り手にはインボイスの交付と写しの保存が、買い手には受領したインボイスの保存が義務付けられました。

法人が課税事業者の場合は、適格請求書発行事業者の登録が必要になり、免税事業者は取引継続のため課税事業者への変更が課題となっています。

インボイス導入を機に、社会的信用や節税によるメリットを得るため、個人事業主から法人化を検討する際には、メリット・デメリットの両方を押さえておきましょう。

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