インボイス制度が開始され、免税事業者に対する課税事業者の対応も整いつつあります。そのため、そろそろ免税事業者から課税事業者への転換を考えている方も多いのではないでしょうか?
免税事業者にとって、消費税の納税や事務作業などの負担に対する不安は尽きません。
しかし、実は免税事業者から課税事業者に転換すると、税負担を軽くできる制度がいくつか設けられているのです。
この記事では、免税事業者になるべきかそれとも課税事業者へ転換するべきなのか、税負担を軽減する制度と、それぞれのメリットとデメリットについて詳しく解説しています。また、インボイス発行事業者に登録する際の書類の提出方法についてもお伝えしています。
インボイス制度を正しく理解し、円滑な事業運営を目指しましょう。
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インボイスとは「適格請求書」のことで、消費税を税種別ごとにわけ、金額を正確に伝えるためのものです。スーパーなどで買い物をした際に発行されるレシートを見ると分かりやすいでしょう。事業者名、購入日、区分された税率ごとの金額、そして事業者番号が記載されており、簡易インボイスとして認められます。
インボイス制度は、この適格請求書を発行・保存し、事業者が適切に消費税を納付するために設けられた制度です。
基本的に、課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費者から預かった消費税を納付する義務があります。その際、事業者は仕入れに支払った消費税を差し引いて納付します。
この仕組みを仕入れ税額控除といいます。
しかし、インボイス制度では適格請求書がなければ、仕入れ控除を受けることができません。控除を受ける際には、取引先からインボイスを発行してもらい消費税を支払ったことを照会できるようにしておかなければなりません。
インボイス制度の適用には、インボイス発行事業者として登録をおこない、事業者番号を発行する必要があります。
消費税課税事業者とは、消費者から預かった消費税を納める義務がある事業者のことです。基本的に基準期間内の売り上げが1,000万円を超えると、インボイスの対象となります。
個人事業主の場合は1月から12月、法人の場合は事業年度の期首から1年間を基準期間として、売上額の合計で判断されます。
条件を満たせば課税事業者へ自動的に変更になりますが、インボイス発行事業者への登録は任意です。課税事業者になればインボイス発行事業者にもなれるわけではありません。インボイス発行事業者になるためには自身で申請する必要があります。
免税事業者が基準期間内に1,000万円以上の売り上げをあげた場合、その翌々年から課税事業者となり納税義務が生じます。
基準期間は1年間、1月から12月を通した売り上げで算出されます。
例えば、2023年の売上が1,000万円を超えたのであれば、課税事業者として納税義務が発生するのは2025年からです。
ちなみに、条件を満たせば自動的に課税事業者として扱われますが、事業の縮小などで課税事業者から免税事業者へ戻るには手続きが必要です。
企業が急成長し、短期間で売り上げが1,000万円を超えた場合、タイミングによっては翌年から課税事業者として納税義務が生じます。
大幅な売り上げ増に対しては基準期間ではなく、特例期間が適用されるからです。
個人事業主の特定期間は上半期、つまり1月1日から6月30日の6か月間です。
例えば2024年の1月から6月までにすでに1,000万円以上売り上げがあれば、1年待たずに翌年の2025年から課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
法人の場合も個人事業主と同様、特定期間内の6カ月の間に売上高が1,000万円を超えると、翌年から課税事業者になります。
個人事業主との違いは、基準となる期間が事業年度の期首から6カ月という点です。また、法人の場合、事業年度は会社ごとに異なります。
例えば、3月決算の場合は、その年度の4月1日から6ヵ月が特定期間となり、その間に1,000万円以上の売り上げがあれば、翌事業年度から課税事業者となります。
基本的に新しく設立された法人は基準期間に売り上げがないため、課税事業者として申請しない限りは免税事業者です。
ただし、設立の時点での資本金が1,000万円を超える場合や、親会社の影響が大きい特定新規設立法人の場合は、特例として設立当初から課税事業者として消費税を納付しなくてはなりません。
特定新規設立法人とは親会社が50%以上の株式を保有し、なおかつ基準期間の課税売上高が5億円を超えている法人のことです。
例えば、売り上げが5億以上ある会社が100%出資して子会社を設立した場合などが該当し、設立した翌年度から消費税の納税義務が生じます。
免税事業者とは基準期間内の売り上げが1,000万円以下の事業者です。
基準期間の売り上げがない新しい企業も、基本的に免税事業者からのスタートです。
納付の義務がないからと言って消費税を徴収してはいけないというわけではありません。
課税事業者との違いは、あくまで消費税の申告・納付の義務があるかどうかです。
しかし、基準期間の売り上げが1,000万円以下でも、特定新規設立法人や資本金が1,000万円以上ある法人は、はじめから課税事業者として消費税を納付する必要があります。
売り上げが1,000万円以下の免税事業者でもインボイス発行事業者に登録すると、制度に従い消費税を納付しなければなりません。
支払った消費税の支払い控除は受けられるようになりますが、それによる事務負担は増えるでしょう。
インボイス制度が開始された今、免税事業者のままでいるか課税事業者へ転換するのかは、周囲の登録状況や税負担を考慮し、慎重に検討する必要があります。
免税事業者が課税事業者に登録するかどうかはその企業の判断にゆだねられます。必要に迫られなければ登録しなくても問題はありません。
しかし、インボイス発行事業者との取引がある場合、インボイスの登録を求められたり、値下げを要求されたりするなど、さまざまな影響が予想されます。
取引先の課税事業者から、免税事業者の企業にインボイスへの登録を促す可能性があります。課税事業者が消費税を納付する際に仕入れ控除を受けるためには、インボイスが必要だからです。インボイスを発行できなければ取引先は仕入れ控除を受けられず、その分消費税の納付額が多くなってしまう可能性があります。
しかし、先ほどお伝えしたとおり登録は任意です。とくに個人事業主の場合は、インボイス登録すると、これまで収入の一部になっていた消費税を納付したり、それにまつわる事務作業が増えたりと、負担が増えてしまいます。
課税事業者への転換は取引先の言いなりにならず、さまざまなリスクを想定し判断しましょう。
免税事業者は、課税事業者との取引において値下げを要求されることもあります。インボイスを発行してもらえなければ納付額が増える恐れもあるからです。
免税事業者との取引では、あらかじめ取引額から消費税分を差し引いた金額を提示されることもよくあるようです。
値下げに応じないと取引自体がなくなる可能性もあるため、免税事業者としてはその条件をのまざるを得ません。
しかし、課税事業者が免税事業者との取引において、税負担が増えてしまうというのは公平ではないため、消費税相当分を値下げするというのは折衷案として妥当とも言えるでしょう。
しかし、消費税額以上の値下げや一方的な値下げは下請法に違反します。また、インボイスへの登録を断ったことを理由に取引を減らされたり、中止したりすることは独占禁止法に触れる可能性があります。(参照:独占禁止法 | 公正取り引き委員会)
課税事業者、免税事業者の双方が、納得できるよう値下げについては十分な説明と合意が必要です。
インボイス制度をきっかけに免税事業者が課税事業者となった場合、これまでお世話になっていた課税事業者との取引を問題なく継続できるというメリットがあります。
しかし、税負担は重く感じるでしょう。もともと売上額として計算していた消費税を額面通り納付することになるため、収益が大幅に減少してしまう恐れがあるからです。
そのため特例として一定期間、消費税の負担や事務負担を軽くする対策もとられています。これもインボイス制度をきっかけに課税事業者になるメリットと言えるでしょう。
ではその対策を詳しく解説していきます。
免税事業者がインボイス制度をきっかけに課税事業者へ転換した場合、納付する税率を売り上げ課税額の2割で計算する「2割特例」が適用されます。
2026年9月30日までの特例期間内にインボイス発行事業者となれば対象となるため、早めに登録すればするほどその恩恵を受けられる期間は長くなります。
特別な書類は必要なく、確定申告の際に2割特例を適用させることを記載するだけです。
免税事業者からインボイスに登録し課税事業者に転換する際、課税売上額が5,000万円以下であれば、みなし税率として一括で仕入れ控除できる簡易課税制度も選べます。
このみなし税率は事業の種別によって異なるため、事業によっては2割特例を選択した方が、税負担が大幅に軽くなるケースがあります。
例えば売り上げが500万円、仕入れにかかった経費が100万円の場合、預かった消費税は50万円、支払った消費税は10万円です。
というように、この場合は2割特例を適用した方が節税できるでしょう。
インボイス制度の開始にともない、課税事業者の税負担を軽減する対策として、納付額から一定の控除を受けられる経過措置がとられています。
対象となるのはインボイスが発行できない免税事業者やインボイス登録のない課税事業者との取引にかかる消費税です。2026年9月末までは80%、2026年10月1日から2029年の9月末までは50%の控除が受けられます。(参照:5 経過措置 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置|国税庁)
この経過措置を受けるため には帳簿と要件を満たす請求書を保存しておく必要があります。
課税売上高が1,000万円以下の免税事業者が課税事業者になるデメリットは、税負担が増えることです。仕入れ額が少なかったり、免税事業者との取引が多かったりすれば、控除される金額も少なくなります。売り上げのわりに納付額が多くなってしまい単純に売上額が減る可能性があります。
また、請求書のフォーマットを整えたり、取引ごとにインボイスを保存したりといった事務作業が増えるため、事業規模の小さい企業や個人事業主にとっては大きな負担となるでしょう。
このようなデメリットによる事業者の負担を軽減するために、免税事業者から課税事業者になる際、簡易課税制度を選択する方法もあります。簡易課税制度とは納付する消費税額から、事業区分ごとのみなし税率を控除して納付する制度です。
仕入れごとではなく一括して一定の割合を控除するため、事務負担は少なくなります。事業によっては税負担も大きく軽減できるため、前述した2割特例などとあわせて適用を検討するとよいでしょう。
免税事業者が課税事業者となってインボイス登録する際、申請書を提出する方法は2つです。
インボイス登録センターには窓口が設置されていないため、申請書を直接持ち込むことはできません。
インボイスに登録されれば登録番号などが記載された登録通知書が郵送されます。原則として通知書を失くしてしまっても再発行はできないため、通知書の紛失には注意が必要です。e-Taxで申請した場合は、通知をデータで受け取る仕組みとなっています。
また、申請はデータの紛失のリスクが少ないe-Taxがおすすめです。24時間いつでも申請できるうえ、個人事業主であれば、スマートフォンでも手続きができます。
申請する書類は国税庁のホームページからダウンロードできます。税務署でも取り扱いがあるため、利用しやすい方法で入手しましょう。
免税事業者がインボイス発行事業者に登録するためには登録申請書を提出します。
申請書は2枚組で、申請には両方とも必要となるため記入漏れがないようにしましょう。また、課税事業者と免税事業では記入する場所が異なります。
書き方がわからない方は国税庁の登録申請書の書き方フローチャートに従い、質問に答えていくとよいでしょう。事業に合った申請書が表示されます。申請書は2024年4月に改訂され、カラー表示で記入する場所が分かりやすくなりました。基本的に、色がついている箇所に記入していく形となっています。
必要事項を記入したらe-Taxで申請、またはインボイス登録センターへ郵送します。
郵送の際はマイナンバーカードのコピー、または住民票と住所や氏名が一致する通知カードのコピーと運転免許証などの身分を証明できる書類を添付しましょう。
消費税課税事業者選択届出書とは、基準期間の売り上げが1,000万円に満たない免税事業者が課税事業者へ転換する際に提出する書類です。
通常、免税事業者が課税事業者になるには消費税課税事業者選択届出書を税務署に提出する必要があります。しかし、インボイス制度開始から2029年9月30日までの6年間は経過措置として、インボイス発行事業者として申請・登録すれば、別途申請する必要はありません。
今回はインボイス制度で免税事業者が課税事業者になるメリットデメリット、申請書類の出し方について解説いたしました。
免税事業者から課税事業者への転換でおさえておくべきポイントは、「税負担」「事務負担」「取引先との関係」の3つです。
免税事業者がインボイスに登録しインボイス発行事業者になるためには、課税事業者への転換は必須です。しかし、課税事業者となれば、消費税の納税義務が発生するため税金や事務作業での負担が増えるでしょう。したがって、インボイス制度のメリットやデメリット、税負担をおさえる経過措置や2割特例の適用など、正しく理解しておきましょう。
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